2008年11月5日水曜日

【社説】チベット問題 対話の機運を絶やすな

【社説】チベット問題 対話の機運を絶やすなhttp://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2008110502000082.html
(中日新聞 2008年11月5日)

【社説】チベット問題 対話の機運を絶やすな
2008年11月5日
 チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ十四世が自治拡大に向けた中国との交渉は「失敗だった」と述べた。三月の騒乱を機に再開された対話の中断は暴力を招きかねない。双方に自制を求めたい。
 ダライ・ラマ十四世は先月三十一日から八日間の日程で日本を訪問しており、東京などで講演する。三日の記者会見でチベットの自治をめぐる中国当局との対話で事態が好転しないことに、「近年、チベット人の批判が高まっている」と認めた。
 「中国政府への信頼はますます薄らいでいる」と失望感も表した。十七日にインド北部で亡命チベット人の代表者会議を開き、対話継続の是非を話し合うという。
 ダライ・ラマ特使と中国共産党統一戦線部との対話は今年五月から三回行われている。ダライ・ラマは対話に先立ち独立要求を放棄、「高度な自治」を求める立場を明確にし北京五輪も支持した。
 しかし、中国は「高度な自治」要求は事実上、チベット自治区や四川、甘粛、青海省のチベット族居住区を含めた「大チベット」再建構想だと批判を緩めていない。
 中国側は七月の対話でダライ・ラマ側がチベット独立を目指す急進派の暴力やテロを抑え込むことを受け入れたとしているが、ダライ・ラマ側は合意はないとするなど主張は平行線をたどっている。
 ダライ・ラマは記者会見で自らが進めてきた対話が成果を上げていないことに、チベット内で急進派の影響力が高まっていることを明かした。五輪閉幕後、チベット問題への関心を失っている国際社会に向け中国に対話推進の圧力をかけるよう訴えたものだろう。
 今年三月の騒乱事件も背景には二〇〇二年以来続いてきた中国とダライ・ラマ十四世側の対話が昨夏、中断したことがある。中国はその後、ダライ・ラマなど「活仏」の生まれ変わりを認定するには政府の許可が必要とする制度を設け、次のダライ・ラマ十五世を自らの主導で選ぶ姿勢を示した。
 それがチベット側の強い反発と急進派の台頭から流血の事態を招いた。非暴力と対話を掲げるダライ・ラマ十四世の影響力後退は対決の激化につながる。
 十四世は七十三歳と高齢で健康不安もある。中国は対話を引き延ばすのではなく、大国の度量を見せることはできないのか。双方とも暴力と流血ではチベット問題の解決はありえず、対話によってしか平和と安定がもたらされることはないことを銘記すべきだ。

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